国宝建造物編72| 山号・寺号 | 阿施縛狗山秋篠寺 |
| 所在地 | 奈良市秋篠町 |
| 起点駅・目安時間 | 京都駅・45分 |
| 経路 | 近鉄大和西大寺駅・徒歩15分 |
| 国宝建造物 | 1 本堂 |
| 国宝仏等 | なし |
| その他の国宝 | なし |
| お薦め度 | ★★★★★ |
西大寺駅から徒歩というのが秋篠寺への一般的なルートである。しかし,橿原線京都寄り一つ手前の平城駅から歩くと大和盆地の風情を僅かではあるが,楽しめる。但し,競輪不開催日に限られる。
秋篠川は,今となっては,護岸工事が完璧に施され,その堤防には,背高泡立ち草以外の草を探すのが難しいほど。しかし,秋ともなれば,黄金色の田畑をどこからか風がわたってきて,秋篠川沿いにぶらぶら歩きを楽しむことができる。道を間違えなければ,秋篠寺へは10分ほどで到着する。
かつては,大和の風情に包まれていたこの村落も,惜しむらくは「秋篠宮」により,世に知れ渡ることになり,その時から,往時の静寂は望めなくなった。
しかし,とみに開発が進んだ割には,節度ある住宅地が広がり,観光客相手のあの新しい窯や土産物屋,喫茶店等も現れず,秋篠の里ののどかさは十分に保たれている。
ただ,行政のみが,競輪場に象徴されるごとく,無節操な開発を実施している。
この名前だけでうっとりしてしまう,秋篠寺は,まだまだマイナーと見えて観光客もさほど多くはない。
砂礫の敷き詰められた境内の中央には石灯籠が置いてあり,その後に本堂がゆったりと甍を広げている。高い日差しの中では,鈍い光りを返す瓦の色と白塗り壁,アクセントのように挟み込まれた古色蒼然たる柱の色が美しい。
本堂の中には,本尊の木造薬師三尊像が安置されているが,その左端の方に佇立する技芸天が有名であり,全国に隠れたファンが多い。
しかし,入れ込み度ナンバーワンは,やはり川田順であろう。境内奥には,川田順の石碑もある。
これら多くの文人墨客の中に遅ればせながら参入したのが立原正秋。立原の入れ込み様も川田に負けず劣らず尋常ではない。入れ込んでいる,と言うより,技芸天に恋している,と言った方が正確だ。奈良を紹介する際には,必ずと言って良いほど,一級の表現で絶賛している。
その立原の代表作に「春の鐘」がある。
古陶器を中心に古美術の研究に打ち込む奈良の私立美術館館長鳴海六平太と彼を巡る二人の女,妻と陶工の娘多恵,佐保路を舞台に三人が織りなす心模様が描かれる。立原の代表作とするには,やや語弊があるが,映画化された新聞連載小説だけあって,サービスたっぷりの奈良観光案内書となっている。
立原正秋「春の鐘・上下」(新潮文庫)
「まあ、美しいほとけさまだこと」
「色っぽいだろう」
「そうですわね」
「目もとが涼しい。色っぽいが、しかしよくみると、天平末期の幽愁を秘めて
いる。若い頃、僕はこのほとけさまに恋をしたことがあった」
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