国宝建造物編74| 山号・寺号 | 薬師寺 |
| 所在地 | 奈良市西ノ京町 |
| 起点駅・目安時間 | 京都駅・45分 |
| 経路 | 近鉄西ノ京駅・徒歩すぐ |
| 国宝建造物 | 2 東塔・東院堂 |
| 国宝仏等 | 3 薬師如来及び両脇侍像・観音菩薩立像・僧形八幡神,神功皇后,仲津姫命座像 (国宝仏編bQ8) |
| その他の国宝 | 4 仏足石他 (その他の国宝編bS6) |
| お薦め度 | ★★★★ |
西の京駅の改札口を出ると,誰しもすぐに,あの東塔はどこだろうかと首を回す。民家の陰で見あたらないが,気を取り直し「薬師寺」との案内に従い築地塀をつたう。
やがて誰が言い出したのか[凍れる音楽」と評される東塔が見え隠れするようになる。
門を入ると,やはり,東塔が気になりそちらに脚が向く。しかし,塔は何事も無かったかのように真っ直ぐ天に向い佇立している。その気品に満ちた姿はけなげでもある。
水煙には天女が舞うと言うが,ハッキリは分からない。
水煙の彼方に広がる天高し (秋雨)
一見6重塔に見えるこの塔,各階層に裳腰と呼ばれる回廊の飾り屋根を付けていて,実は3重塔である。
また,各階に白鳳時代の三手先組物が張り出していて,その頃の建立かとも思われるが,諸説がある。
もともと薬師寺は藤原京に聖武天皇の病気平癒を祈願して建てられたが,平城遷都とともに現在の地に移転してきた。その際,この3重塔も移築されたとすると建立は白鳳時代となる。ところが旧薬師寺の発掘により平安時代まで伽藍が残っていたとの見解が有力になり,移築説すなわち白鳳時代説は少数になった。
扶桑略記に天平2年(730)造立との記述もあり今では,天平年代説が有力である。
南都六宗の一つ法相宗は,興福寺とともにここが総本山。
法相宗の始祖は,あの西遊記,三蔵法師のモデル玄奘である。玄奘は,国禁を犯し長期間にわたり仏教経典を求めて西域を旅する。数十年の彷徨の後,夥しい数の教典等を唐に持ち帰る。
僧道昭は,唐に渡りこの玄奘から,法相宗を学び日本に持ち帰る。行基も弟子の一人。
その教えの中心は,唯識論と呼ばれ,全ての存在は認識のみにより感知される,とする。認識とは,6つの意識,即ち目,耳,鼻,舌,身,意と二つの無意識,即ち末耶識,阿頼耶識,とからなる。
1000年以上も昔にユングの深層心理学に負けず劣らずの哲学が成り立っていたことには,改めて驚嘆させられる。
なお,道昭は死後その遺言により火葬にふされる。日本最初の火葬と言われている。
心ゆくまで東塔を堪能した後は,裏手に廻り東院堂に聖観音を訪ねる。
| 薬師寺東院堂 | |
最後に,本尊である国宝・薬師如来と両脇待像の安置される金堂に向かう。折しも,本尊薬師三尊像は師走の年中行事「ほこり取り」の真っ最中であった。
修行僧等により黒光りのする薬師如来が出現した。
この金堂裏手には,さらに仏足石と仏足石碑碑という風変わりな国宝が陳列されている。
| 正月を迎える準備のため年に一度のほこり取り | |
寺を辞し,来た道を戻る。門の前には,真っ直ぐ北に向かう小径が伸びている。 唐招提寺にいたる路だ。
この路は少し前,そう昭和40年代でも,天平の往時の雰囲気を想像させる路だった。
かつては,亀井,和辻が憧れ,天平人に思いを馳せた古の大和の小路。
そして,現代の文人達が,こぞって描写した路でもある。しかし,今は,平成の日本のどこにでも見られる,その意味で残酷な路になってしまった。
法隆寺から法輪寺,法起寺に至る斑鳩の小径とこの薬師寺から唐招提寺に至る小径は,日本で一番美しかった小径ではなかったか。日本で一番美しかった小径が失われてゆく。
気味の悪い話が多いが,日本最古の仏教説話集である「日本霊異記」は,この薬師寺の僧,景戒が書いている。
文庫本はあまり見かけないが,「日本霊異記」(講談社学術文庫,上中下)として出版されている。しかし,大部で読みにくく旅には不向き。
とすれば立原正秋「花のいのち」(新潮文庫)が気楽に読めてお薦め。
一人娘を残し離婚に踏み切った窈子は,沼津の別荘で保養所を営む時,美術史家織部と出逢い運命的な恋に陥る。やがて二人は結ばれるが,織部は改修中の薬師寺の塔に登り足を滑らせてしまう。
古都の風情を色濃く残す奈良の四季の移ろい中で,あますところなく繰り広げられる立原ワールド。珠玉の名品。
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