国宝仏編№36
| 山号 | 室生寺 |
| 所在地 | 奈良県宇陀郡室生村 |
| 最寄駅・目安時間 | 新幹線京都駅から1時間30分 |
| 経路 | 近鉄大阪線室生口大野駅からバス |
| 国宝仏 | 釈迦如来立像等 3件3軀 |
| 国宝建造物 | 3 (国宝建造物編№80) |
| その他の国宝 | なし |
| 秘仏・公開 | 公開 |
| 仏像名 | 安置場所 | 備考 |
| 伝釈迦如来立像 | 金堂 | 1軀 |
| 十一面観音立像 | 1軀 | |
| 釈迦如来坐像 | 弥勒堂 | 1軀 |
室生川上流の山懐に抱かれるようにしてひっそり佇む寺,室生寺。
春の新緑,秋の紅葉と四季折々に美しいこの寺は,かつて女人高野とも称され,その頃から多くの参詣者を集めていました。もっとも,女人高野の呼び名は,興福寺との関係が絶たれ真言宗に属するようになった江戸時代以降のことです。
この寺の創建は古く奈良朝末期から平安初期にかけて興福寺の僧賢璟のより整えられました。
ここ室生寺には,釈迦如来立像と釈迦如来坐像の二つの釈迦如来像があります。2軀とも国宝に指定されていますが,このうち立像は金堂の本尊として,薬師如来,文殊菩薩,12神将らに護られるようにして須弥壇上中央に安置されています。
榧材の一木から造られた像高234センチの大きな如来ですが,衣文に大きな特徴があります。漣波式とも複翻波式とも呼ばれる技法でゆったりとした衣文線が描かれています。その衣文線にはさらに切金線が載せられています。
漣波式衣文・複翻波式衣文とは,丸みのある1本の線と鋭角に尖った2本の線,計3本を一組とする衣文線の描き方のことです。
衣文線の表し方の一つに,大波と小波を交互に繰り返す翻波式衣文がありますが,この大波にとられた広幅部分に,のみを入れ凹面にしたものと考えられます。
この釈迦如来立像の最大の特徴は,他ならぬ光背にあります。唐草文様の葉先は,まるで燃え立つ火炎のように揺らめいていて,黄金色に彩色されています。
この彩色は,繧繝(うんげん)彩色と呼ばれ,濃から淡への変化を少しずつ色をぼかすのではなく,同系色の色帯を何段も並べることにより表現しています。
この想像上の美しい草花,宝相華文が描かれた鮮やかな光背には,七軀の如来が描かれています。このことから,この本尊は,実は釈迦ではなく,薬壺(やっこ)を持たない薬師如来,七仏薬師ではないか,と考えられています。
金堂の須弥壇上の左端に置かれています。
本面の上の冠の中央に菩薩面3,左に瞋面3,右に牙上出面3の計9面とさらに最頂部には如来相の頂上仏面が置かれています。
もう一つの釈迦如来は,弥勒菩薩を本尊とする弥勒堂に安置されています。
どっしりとした体躯を包む衣紋は,大波と小波を交互につける翻波式衣紋と呼ばれる彫りが施されていて,その彫口は鋭く指の腹を押し当てると切れそうなほどです。貞観彫刻の代表例の一つ,と言われています。
また,この像は,榧(かや)材(檜とも)の一木造りで,両手および半跏趺して伸び出している足は別材で矧ぎ付けてあります。
この像の最大の特徴は,やはり,螺髪が無いことでしょう。飛び出した肉髻の上の無数の螺髪を見慣れた者には,一見奇妙な印象を与えます。
しかし,このみ仏の隠れたファンは多く,中でも,写真家土門拳は,この如来は「日本一の美男子のほとけ」とまで言っています。
室生寺が女人高野と喧伝されて久しいところですが,その理由は不明です。なるほど高野山並の聖地の品格を備え,しかも小振りで滋味溢れるその佇まいは,女人にとっての高野山に相応しいことは,肯けます。しかし,案外,この美男子のほとけ様あってのことかも知れません。
金堂中尊の右側には地蔵菩薩が佇立していますが,この地蔵菩薩も中尊と同じような光背を背にしていることから,中尊と同時期に造られたのではないかと考えられています。しかし,よくみると像の大きさの割に光背が大きすぎるし,像の作風も大分異なります。光背と像がそぐわないのです。
ところで,室生寺の近くに三本松中村区という地区がありそこの堂に一体の地蔵様が安置されています。この地蔵は大きさ,顔の表情,漣波式(複翻波式)の衣文等,金堂の中尊に酷似しています。
そこで,この地蔵こそがもともと金堂の中尊横に安置されていて,何らかの事情で移転したのではないか,と考えられています。
そうであるなら,この像も中尊と同時に国宝に指定されていた可能性がありますし,今後指定される可能性も大いにあると思われます。
隠れた国宝が名もなきお堂に安置されています。
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