国宝仏編

国宝を訪ねて

仏の特徴・見分け方

何のために仏の特徴を知るのでしょうか?

 仏は、如来、菩薩、明王、天部、羅漢、祖師等に分類されるのが一般です。分類出来るということは,それらにはそれぞれの共通点,特徴等があるということです。
 それならば,それを理解することにより,目の前の仏像が如来なのか,菩薩なのかその区別が可能となります。それにより鑑賞もこれまでとは違ったものになるはずです。 
 なぜなら仏様の分類ができるとその仏に願いをかけた人たちのことがよく見えるようになるからです。仏には格別の役割があり,それぞれの仏には特定の悩みや苦しみを抱えた者が集まってきていたのです。例えば,病気の快癒といった現世利益を求める者は薬師如来のもとに,死の恐怖を抱く者は阿弥陀仏のもとに、と。
 それぞれの仏に対し,衆生が何を祈ったのか。それらを思い描きながら,また,当時の歴史的背景をあれこれ想い巡らせながら,仏様を鑑賞するのも一つの方法です。
 ここでは,印相,持物、着衣等,外形から仏の特定方法を考えることとします。仏の果たす役割,性格,持ち味等は「様々な仏達」をご覧下さい。

如来・菩薩とその他の諸尊

 まず,如来と菩薩グループとそれ以外の仏のグループとに大きく分類します。
 これは比較的簡単です。
 お堂に入ってまず,中心に本尊が祀られています。本尊は独尊の場合と,脇侍を従えている場合もあります。しかし,この独尊,若しくは三尊は,大部分,如来と菩薩で占められています。
 明王や天部の諸尊は中央に祀られることはあまりありません。本尊の周囲や,堂の四隅に祀られています。
 このようにして,仏の位置から如来,菩薩グループと明王,天部グループとの区別ができます。 

如来と菩薩の特徴

 次ぎに如来と菩薩をどのように区別するかですが,これも比較的簡単です。それは,着衣の良否と装飾品の有無により区別ができます。
 着衣の立派なのが菩薩でみすぼらしいのが如来です。ランク的には如来の方が上ですからおかしいような気がしますが,如来は修行中の、菩薩は出家前の姿を、それぞれモデルにしているからこのようなことになります。
 しかし,これには例外があります。大日如来は如来ですが,派手な服装をしています。また,地蔵菩薩は菩薩ですが地味な服装をしています。
 如来と菩薩とに分けて少し詳しくみることとします。

如来の特徴

 如来には,釈迦如来をはじめとし,阿弥陀,薬師,大日の四如来が著名ですが,如来の特徴は,髪を結わない,頭の一部が盛り上がっている,装飾品は付けない,粗末な衣を身にまとっている,等の諸点をあげることができます。但し,大日如来は別です。もう少し詳しく説明します。 

釈迦如来

 釈迦如来像は,その多くが修行中の姿を表現しています。そのため粗末な服装をしていて,装身具などは付けていません。
 もっとも,これは他の如来や地蔵菩薩も同様ですので,印や持物により特定していくことになります。
 釈迦如来の印は施無畏印と与願印が多いようです。
 詳しく言えば右手が施無畏印となっています。施無畏印とは,手を軽く挙げて5指を伸ばし掌を外に向けた状態をいいます。
 左手は与願印です。与願印は,逆に手を軽く下げて5指を伸ばし掌を外に向けます。
 その他の印としては転法輪印があります。転法輪印は,説法印とも呼ばれ胸の前あたりに両手をさりげなく立てた状態です。

薬師如来

 薬師如来は釈迦とともに日本では古くから親しまれてきた如来です。古くから造られたためか,中々区別がつきにくいところです。
 印は釈迦と同様,印は施無畏印と与願印が多いようです。この二尊の区別は持物の有無によることになります。右手は完全な施無畏印ですが,左手には薬壺が載っているためハッキリとした与願印にはなっていません。薬壺があれば薬師如来です。

阿弥陀如来

 阿弥陀如来は,古くから民衆に親しまれてきた如来ですが,最も注目されたのは,浄土教が広く流布した平安末期から鎌倉時代にかけてのことです。しかし,浄土教の理解が変化するにつれ阿弥陀如来像の形態も変化しました。
 奈良時代には,説法をする姿が刻まれました。
 平安時代では,座って静かに瞑想に耽っています。
 鎌倉時代になると,念仏さえ唱えれば臨終の際にはたちどころに浄土から阿弥陀様が迎えに来てくれるとの教えとともに,坐像から立像に変わりました。
 少しでも早く迎えに来て欲しいとの人々の切なる願いが形になったと思われます。
 このような形態の変化はきっと重要な意味があると思います。当時の世相や考え方を想い描きながら鑑賞するのも楽しいものです。 

阿弥陀と釈迦の区別

しかし,釈迦と阿弥陀の区別は難しいようです。
 まず,宗派が浄土宗系であったり,お堂が阿弥陀堂と呼ばれていれば,そこの本尊が阿弥陀如来であることは簡単に分かります。
 さらに阿弥陀如来特有もしくは比較的多くみられる印もあり,その点から区別が出来ます。
 弥陀の定印と言われる阿弥陀如来の瞑想の形です。臍の辺りで両手のひらを上に向け重ねます。そして,左右それぞれの親指と人差し指で二つの円を作ります。
 
 印による特定の他には,観音,至勢の両菩薩が脇を固める三尊の形式も多いことから,両菩薩が特定できれば本尊が阿弥陀如来であることもわかります。 

大日如来

 如来は,すでに述べたように粗末な衣装が特徴の一つですが,例外的に、密教系の大日如来だけは装身具等を目一杯付けています。そのため次に述べる菩薩との区別が難しくなりますが,ここでも,印によりかなり特定が可能です。
 とりわけ金剛界の大日如来が結ぶ智拳印は特徴的です。智拳印とは,忍者が姿を消すときの,左手人差し指を右手で包むあのスタイルのことです。
 また,胎蔵界の大日如来は,禅定印を結びます。
 禅定印は,弥陀の定印と似ていますが,左右の親指だけを接して一つの円を作ります。瞑想に入っているときに結ばれる印です。

菩薩の特徴

 菩薩は,釈迦が修行に入る前の姿を現しているとされることから、身にまとう衣装は当時のインド貴族の正装が基本となっています。そのため衣服は立派、さらに瓔珞(ようらく)と呼ばれる首飾りの他,玉を数珠繋ぎにした椀釧(わんせん)と呼ばれる腕輪等の装身具がちりばめられています。
 但し,菩薩の中でも地蔵菩薩だけは,如来と同様,粗末な納衣を身につけています。
 なお,菩薩については印により特定できるケースは少なく,もっぱら持物により特定されることになります。 

観音菩薩

 観音菩薩は阿弥陀如来とともに祀られることが多いようです。阿弥陀が迎えにゆくときお手伝いをするような感じです。観音菩薩は阿弥陀と縁が深く,そのためか頭に阿弥陀如来の化仏(けぶつ)を載せています。
 これが最大の特徴ですが,他には水瓶(すいびょう)を手にしていたり,死者を載せる蓮台を持っている菩薩もあります。水瓶と蓮台は決定的なポイントになります。 

勢至菩薩

 勢至菩薩の最大の特徴は頭上に水瓶をつけている点にあります。
 勢至菩薩は単独で祀られることがなく,目にするとしたら,阿弥陀如来の右(向かって左)の脇侍としてでしょう。

文殊菩薩と普賢菩薩

 釈迦如来の脇侍として左右に(向かっては右,左に)文殊菩薩と普賢菩薩が祀られます。文殊菩薩は獅子の上の蓮華座に,普賢菩薩は象の上の蓮華座に,それぞれ鎮座しています。
 もっとも,文殊菩薩と普賢菩薩が獅子や象の蓮華座に座るのは平安時代になってからのことです。それ以前は立像が多いようです。

地蔵菩薩

 地蔵菩薩は菩薩ですが,衣服は如来並みに粗末です。手には錫杖を持っているからすぐ分かります。錫杖とは杖のことです。

明王の特徴

 本尊やその脇侍の周りに配される仏像には明王や天部に属する諸尊があります。これらはその立位置から明王,天部の諸尊と分かりますが,その中の区別には,これまた知識が必要です。
 明王は,如来の命を受けて、仏教の流布にとって障害となる様々な魔障を打ち破る役割を担う仏です。そのため,持物として剣や弓矢などの武器を身につけていて,それが特徴の一つとなりますが,服装は,条帛と裳を身につけるだけで質素です。
 また,その表情は,憤怒の形相が一般であり,それが最大の特徴です。
 ただ,唯一、孔雀明王のみは例外で菩薩相をしています。  

五大明王

 五大明王とは,不動明王,大威徳明王、軍荼利明王,降三世明王,金剛夜叉明王の五尊です。
 それぞれの特徴は,不動明王は一面二臂で人間と同じ,その二臂の右手に剣,左手に羂索というロープを持っています。

 次ぎに降三世明王は髪が怒りで炎のように逆立っていて,目が三つあります。
 金剛夜叉明王の特徴は何と言っても目の数です。目が5つもあります。目が5つあったら金剛夜叉明王です。
 軍荼利明王は体に煩悩の象徴である蛇を巻き付けています。また跋折羅印(ばさらいん)という特殊な印を結んでいます。跋折羅印とは胸の辺りで手を交差させている印のことです。一昔前に流行った「なんでだろう}の感じです。
 
 最後に大威徳明王は,足が六本です。その点が最大の特徴です。別名「六足尊」とも呼ばれます。また,水牛に跨っています。
 ちなみに,手が3本以上の仏様は沢山ありますが,足が3本以上の仏様はこの大威徳明王だけです。

天部の特徴

 もとインドの神々であった天部の仏は,天女形、武将形、鬼神形、力士形、鳥獣形等に分類できますが,これらの中でも,武将形,天女形は,外見的にもすぐ分かります。
 
 武将形は、何と言っても,本尊を守護するその役割のために甲冑で身を堅め武器を持っていることに特徴があります。
 明王も同様の役割をしていて紛らわしいのですが,明王は,条帛と裳ですが,武将形は甲冑です。ですから服装で区別が出来ます。
 服装と言えば,天部の服装は中国風です。そのためでしょうか,靴を履いている像も沢山あります。バラモンの神が中国で分類整理されたことと関係があるようです。
 
 また,天女形は当然,婦人の姿をしています。仏像の中で婦人あるいは女性は全てこの天部に属すると言ってよいでしょう。                   

梵天

天部の中の最高神です。鵞鳥に乗っていたら梵天です。

帝釈天

帝釈天は手に金剛杵を持ち甲冑で身を固め象に乗っています。象に乗る仏は他に普賢菩薩があります。しかし,金剛杵と甲冑で区別できます。

四天王

 四天王は帝釈天の家来です。須弥山を東西南北の四方から護っています。東南西北の順に持国天,増長天,広目天,多聞天の四天です。これは中々覚えられませんが,トウナンシャペーの順に「地蔵買うた」ジゾーコウタと覚えるのが良いそうです。
 当然,四隅にあれば,四天王と考えて間違え在りません。問題は,西も東も分からない場合ですが,多聞天は常に手に塔を持っていると覚えておきましょう。塔の在る方が北ということになります。

鑑賞のための基礎用語

 以上でおよその識別が可能となるはずですが,その他にも仏像特有の用語がありますので,それらを理解すると仏像に対する興味の持ち方が変わるとおもいます。

仏の三十二相・八十種好

 仏教典の中に,仏と人間には三十二相の相違点がある、と記されています。三十二相とは,例えば,指の間に手足指縵網相と呼ばれる水かきのような膜,
 眉間の間にある白毫相と呼ばれる毛の固まり,
 頭の上の肉の盛り上がりである肉髻,
 金色色の全身,足裏の千輻輪,
等のことで,その記述に従って、表現できるものについては、仏像に刻まれ,あるいは仏画に描かれたりします。
 これら仏の姿に対する様々な定義は,儀軌(ぎき)と呼ばれ,多くの仏像はそれを基本に造られています。
 そして,この三十二相は元来「如来の三十二相」とされ如来の特徴とされてきましたが,菩薩にも同じように用いられています。従って,この三十二相は如来,菩薩の特徴ということになります。ということは,残念ながら三十二相を見つけても仏の特定にはほとんど繋がらない,ということになります。
 また,八十種好と呼ばれる,例えば,耳が長く垂れ下がっているとか,眉は新月のようといった,80に及ぶ特徴もあります。
 これらの特徴の理解は,鑑賞する際の基礎知識ということになります。
 それでは,種類別に特徴を見ていくことにします。 

印相

 印相からもかなりのことが分かります。特定の種類の仏像が特定の印相を結ぶからです。しかし,釈迦と阿弥陀は数種の印相があるので注意が必要です。

 まず,釈迦如来ですが,釈迦の代表的な印相は,右手が施無畏印となっています。施無畏印とは,手を軽く挙げて5指を伸ばし掌を外に向けた状態をいいます。そして左手は与願印を結びます。与願印は,逆に手を軽く下げて5指を伸ばし掌を外に向けます。

 薬師如来の右手も釈迦と同様の施無畏印を結びますが,薬師如来は,左手の上に薬壺を載せていることから区別ができます。

 なお,釈迦は,他に禅定印,転法輪印等の場合があります。

 阿弥陀如来は,定印を結びます。「弥陀の定印」と呼ばれるこの印相は,両手を重ね左右の人差し指を立て背中を合わせます。その先に両親指を載せ二つの円を作ります。
 阿弥陀は,他に転法輪印,来迎印等の場合があります。

持物

 薬師如来は薬壺を持っています。もっともそれは平安時代以降に作られた薬師如来です。奈良時代までに作られた薬師如来は薬壺を持っていません。
 観音菩薩の多くは,水瓶,蓮華を,地蔵菩薩は,宝珠と錫杖を持っています。
 また,不動明王は宝剣と羂索,金剛力士は金剛杵(こんごうしょ)をそれぞれ持っています。金剛杵とはダイヤモンドのように固い武器のことです。
 このように持物からある程度仏の識別が可能になります。

立ち位置と脇侍と眷属

釈迦如来

 釈迦如来には脇侍(わきじ・きょうじ)として左右に(向かっては右,左に)文殊菩薩と普賢菩薩が祀られるのが一般です。
 平安時代以前は,釈迦如来の脇侍として左右に(向かっては右,左に)薬王菩薩,薬上菩薩が配されました。
 また,左右に(向かっては右,左に)大迦葉,阿難の場合もあります。
 次ぎに釈迦には十大弟子や八部衆が眷属として取り囲みます。

阿弥陀如来

 阿弥陀如来には,左右に(向かっては右,左に)観音菩薩,勢至菩薩がひかえています。俗に「左観音,右勢至」と言われます。 

薬師如来

薬師如来の脇侍は,日光菩薩と月光菩薩です。
眷属として12神将が取り囲みます。

大日如来

大日如来は,独尊で祀られることは比較的少なく,多くは大日如来を中心に五仏一具で祀られます。左右に2体ずつの如来が配置されますが胎蔵界と金剛界では異なっているようです。

菩薩

 千手観音には28部衆が眷属として仕えています。三十三間堂にその例が見られます。 

明王

 五大明王は,多くの場合横一列に並んでいます。その場合は,向かって左から大威徳明王,軍荼利明王,不動明王,降三世明王,金剛夜叉明王の順となっています。

天部

天部の中でわかりやすいのは四天王です。持国天,増長天,広目天,多聞天の四天王が講堂の4隅などに佇立しています。トー,ナン,シャー,ペー廻りで「地蔵買た」,ジ,ゾー,コー,タ(持,増,広,多)の順に並んでいます。
このうちの多聞天は独尊で毘沙門天と呼ばれ,吉祥天と対で,あるいは吉祥天と善膩童子を従えて祀られています。


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