国宝建造物編68| 山号・寺号 | 雨宝山十輪院 |
| 所在地 | 奈良市十輪院町 |
| 起点駅・目安時間 | 京都駅・45分 |
| 経路 | 近鉄奈良駅・バスまたは徒歩15分 |
| 国宝建造物 | 1 本堂 |
| 国宝仏等 | なし |
| その他の国宝 | なし |
| お薦め度 | ★★★★ |
奈良の昔ながらの町並みの中にある小さな通の小さな寺である。訪れる人もほとんどなく一瞬入るのが躊躇われるが,勇気を出して門を潜ると,こじんまりとした池を中心に手入れの行き届いた庭が迎えてくれる。
池の廻りには石造りの小径があり所々に石造の観音や不動明王が置かれている。また,庭の奥まったところには東屋も設えてありその横には余り見かけない石彫の「興福寺曼陀羅」も置かれている。
このようにこの寺は石仏等石造の文化財を多く保有している石の寺として知られているが,中でも,重要文化財石仏龕(せきぶつがん)は有名である。
龕とは,仏像を安置する厨子のことで,石仏龕とは石造りの厨子のことである。しかし,ここの石仏龕は3メートル近い巨大な自然石に厨子のみならずこの寺の本尊である地蔵菩薩も彫り出されている。さらにこの地蔵を中心に十王,釈迦等が両脇をかため厨子の扉部分や天井部分等には星宿等が繊細な線で描かれている。
末法が到来し,次の弥勒出来までの56億7千万年間というほとんど永久的とすらいえる仏の不在の間,地蔵はこの世に苦しみを持つ者の願いを聞き入れる。釈迦と弥勒の間に地蔵が祀られている。
本堂の奥にすわり地蔵菩薩と対面すると石のヒンヤリとした空気が流れてくる。僅かな光りに照らし出された地蔵は永久に庶民の願いを聞き入れるかのようである。菩薩の表情から何かをつかみとろうとつい見入ってしまうが,地蔵は,そんなことはまるで見透かしたように表情を変えない。
自然石であることから,天候,殊に雨の前と後では地蔵の肌の色が微妙に異なるという。細工の施された木製の仏像ばかり観てきた者にとっては,石造りの素朴さは新鮮である。素朴で,しかも神秘的な雰囲気が醸し出され類例を他に見ない気がするが,石仏は美術的な評価が低いのか,この龕も重要文化財の指定にとどまっている。石仏の国宝は,大分臼杵の磨崖仏だけである。
なお,地蔵菩薩のことが詳しく書かれた教典に「十輪経」がある。
| 十輪院国宝本堂。この中に重要文化財石仏龕がある。 |
国宝本堂は,もともとは露天掘りであった石仏龕を拝むための礼堂として鎌倉時代に建てられたものである。
当初は独立していたが,石仏龕に覆堂が造られ雨露がしのがれるようになると,本堂と連結されるに至り,現在のような形になったという。
境内の拝観は,無料であるが,本堂の拝観,すなわち,石仏龕の拝観は,有料である。
事前の情報収集が不完全なのか,あるいは庭に結構な石造文化財が配されているためか,庭だけを観て帰る人が多いという。誠に,残念なことである。
本堂脇の庫裏にあるインターホンを押し拝観をお願いすると,若い修行僧の熱心で丁寧な説明を聞くことができる。さわやかな気持ちのよい寺である。
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